読書

音楽としての物語:レイ・デイヴィス『アメリカーナ』

レイ・デイヴィスといえば、一昨年のフジ・ロックフェスティバルで、往年のキンクスの曲を聴衆への歌唱指導つきで披露したり、付箋だらけの自著を(当然英語で)朗読するなど観客の忠誠心を極限まで試した後で、「来年にはアルバムを出すよ。もう一度日本に…

旅行記、女装、ヴァイキング(備忘録)

講談社現代新書を読んでいたら、新刊案内に関心を引く内容を見つけたので、メモしておく。イブン・ジュバイルの旅行記 (講談社学術文庫)作者: イブン・ジュバイル出版社/メーカー: 講談社発売日: 2009/07/13メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 704回この商品…

萌えとやおいとその他のことども。

標記の件につき、頭の整理をしたいなあと漠然と思っていたところ、萌えとやおいについて言及した文章を読み、そこでの言葉の使い方が今ひとつ腑に落ちなかったので、この機会に頭の体操をしてみることにした。と言うことで、以下、コールバイターズ的「萌え…

彼らは作者に反逆する権利を手元に留めおかねばならない。

暑い。検査の結果、持病その他はさしあたり無問題らしいことが判ったので、服の下のそいつと和解して、この週末はのたくた過ごすことにする。そいつに「何が聴きたい?」と聞くとこんなのを選んで来た。Alkoholアーティスト: Goran Bregovic出版社/メーカー:…

はぐるま、「戦争と平和」を読む(3)

まあ、その、つまり、トルストイの「戦争と平和」である。そろそろ本題。 何しろ過去に糞つまらん認定したトルストイであるから、読み通せれば御の字と思っていたのだが、これが案に相違してたいそう面白く味わいぶかいのであった。いや、嫌味じゃなく。いい…

N.Z.デーヴィス特集(備忘録)

ふと思い立ってナタリー・ゼーモン・デーヴィスで検索していたら見つけた。マルタン・ゲールの映画つながりってことなのだろうか、守備範囲の広い人だ。歴史叙述としての映画―描かれた奴隷たち作者: ナタリー・ゼーモンデーヴィス,Natalie Zemon Davis,中條…

はぐるま、「戦争と平和」を読む(2)

引き続き、クールダウン中。 まずは文庫の体裁について難癖をつける。 さて、トルストイの「戦争と平和」である。ボンダルチュクの映画が戦争の場面はたいそうかっこよく、人間関係の部分はかなりうんざりするのに興味を引かれて、原作を読むことにした。地…

はぐるま、「戦争と平和」を読む。

早速、人間状態から滑り落ちる。頭蓋の中で円盤がうつろな音をたてて高速回転しているのが判る。別名、空回り。周囲から「たいへんですねー」と言われまくっているのに本人はそうとも感じず、何だかふわふわしているっていうのは、ある意味かなりやばいんじ…

佐藤亜紀@明大講義[2009年度第2回]

前のエントリで「国民国家nation-state」を引こうと手持ちの「西洋史辞典」(S58,H5改訂、東京創元社)を取り出したら、「国民国家」は事項として収録されていないことが判明。そういうものなのか? それでいいのか? 例え火薬庫に火をつけるようなものだと…

ハリー・ポッターの国籍問題(完)

魔法使いは近代国民国家の夢を見るか。 ということで、ハリー・ポッターの国籍問題を検証する。 ハリー少年の国籍問題を論じるとは、つまり、魔法界がハリポタ物語世界において、近代国民国家としての主権を持つや否やを考えることと同義である。 まず、「国…

ハリー・ポッターの国籍問題(記事一覧)

ということで、目次をつくってみました。よくもこれだけ馬鹿をさらしたものだ。 発端の章 問題提起の章 ファンタジーの定義を考える章 引き続きファンタジーの定義を考える章 ハリポタはファンタジーかを考察する章 ファンタジーと二次創作のソースの相違を…

ハリー・ポッターの国籍問題(5)

「謎のプリンス」近日ロードショーの看板が出ていた。一世一代の大芝居、アラン・スネイプはかっこよく戦ってくれるのかしらん。さて、仕事もドツボにはまって来たので、そろそろ〆たい「ハリー・ポッターの国籍問題」続き。 「本当にあったこと」を詐称する…

エンタメとしての「指輪物語」(2)

うわっ、また出やがった。もう許さん。私がいない間なら何をしてもいいと言い渡してあるのに、どうして私の目の前で、よりによって流しに、しかも私が精神的ダメージのおかげでたたっ殺せない身になっているタイミングで出やがるのか。無礼にも程がある。全…

エンタメとしての「指輪物語」(1)

「エンタメとしては楽しい」 まだまだ続く「ハリー・ポッターの国籍問題」。今回は少し横道にそれて、トールキンの「指輪物語」とエンデの「はてしない物語」について。 前回エントリでは、「はてしない物語」を主人公が異世界に入り込むタイプのファンタジ…

ハリー・ポッターの国籍問題(4)

ファンタジーとしてのハリポタの条件 一方、「本当にあったこと」と「現実」とのリンクを文体や文献学的処理、ではなく、作品中における登場人物の動向で示す方法もあり得る。 たとえば、「ナルニア国物語」では、視点人物*1である子供たちが洋服だんすから…

ハリー・ポッターの国籍問題(3)

「ファンタジー」の(仮の)定義 つまり、ファンタジーとは何かという話なのだが、ここでは仮に「これは本当にあったことなんだよ」と読者を説得したがる、あるいは読者がそのように読み解きたがる一群の虚構のことと考えておく。従って、単に架空の異世界が…

ハリー・ポッターの国籍問題(続き)

これまでのあらすじ。 http://d.hatena.ne.jp/coalbiters/20090517/p1 http://d.hatena.ne.jp/coalbiters/20090518/p1 ファンタジーの境界について つまり、B氏がファンタジーを「押入にこもって見る夢」とか何とか定義するのは、それはそれで構わないのだ。…

佐藤亜紀@明大講義[2009年度第1回]其の二

ハリー・ポッターの国籍問題 ええとつまり、講義のさなかに飛び出したのは、私を釣り上げて馬鹿をさらさせるために呼び出されたとしか思われぬ命題でして、つまり、こんなのです。 A:私はファンタジーというものがよく判らない。例えばハリー・ポッターとい…

佐藤亜紀@明大講義[2009年度第1回]

マキノ的要約 明治大学での講義も三年目。学外者の私ごときも好き勝手に出席することができるのだから、明治大学商学部の太っ腹についてはきちんとここに明記しておきたいと思います。ハラショー。何でも学生は2つのゼミを掛け持ちする制度になったそうで、…

十年の読書。

ちょうど読書メモのページが埋まったので、過去十年間、今頃の季節に何を読んでいたのか調べてみた。 どうやら、同じテーマの周辺をぐるぐるしてるみたいだな。 2000年 日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)作者: 網野善彦出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1997…

スターリンとイヴァン雷帝

久しぶりに本屋へ行ったら、あごひげをぬっと突き出したキリスト顔のイヴァン雷帝がいた*1ので、思わずお持ち帰りしてしまった。エイゼンシュテインの絵って、どうしてこうもやおい汁にあふれているのだろう。スターリンとイヴァン雷帝―スターリン時代のロシ…