ボロジノ顛末その1、及びハリー・ポッターの国籍問題(番外)

ボロジノ顛末その1

実際の戦闘はそうそう英雄的には進まないとはトルストイ御大もかねがね言っていることで、まあだからと言って、アンドレイの戦闘場面からの退場っぷりの情けなさなどは、作者が彼を馬に蹴られて死んじまうキャラに設定して皮肉っぽく描写していることが明らかなだけに、可哀想すぎて涙が出るのだが――という話は後でたっぷりやるとして、つまり、何ごとも戦場では計画どおりにはいかないのである。まる。それを見越して一週間のバッファを織り込む訳だが、一週目にしてほとんど消尽してしまった。
それもこれも、昨今諸般の事情により怒りに打ち震えている布切れの下のそいつのせいであって、昼夜の寒暖の差に異議をとなえ、オフィスの冷房にじわじわと打ちのめされ(定時を過ぎると空調が切られて蒸し風呂になるのでうっかり失念していたが、実は勤務時間中はふくらはぎが冷えるほど効いていたのだった)、各種手続きをさくさく進めることによるストレスに怒り狂い、度重なる検査に堪忍袋の緒を切らして、夏風邪を引くだけではあきたらず、腹痛週間というか、内分泌系混乱週間を最大ボリュームでぶちかましてくれたのだった。よりにもよって〆切当日に人を職場のトイレに釘付けにして早退に追い込むのはやめてくれ。いくら何でも協定違反だ。
ということで、あって無きがごとき初稿の〆切をすっぽかしてしまったので、来週はいよいよ穴ぼこだらけにされる予定。曜日が過ぎていくごとに、自宅の床にコンビニ弁当の袋が増えていく不思議。早く人間に戻りたい。

それはそれとして、これを見た。

ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(1枚組)

ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(1枚組)

シリーズ5作目。場面場面はそれなりに楽しんで見るのだが、全体を通してどういう話なのか、さっぱり判らない。選ばれた少年の恐怖とプレッシャーに焦点が当てられている訳でもなく、魔法界はこの間の戦いで回復不可能な損傷をこうむっている筈なのに、全然黄昏れていないし、かと言って「世界が滅びようとオレたちは高校生だぞテストがあるんだ」の脱力学園ライフに終始するほどには振り切れていないし。いや、現実の日々はそんなものでしょと言われればその通りかもしれないけれど、これ映画だから。伏線も効果的には回収されていないので、ひたすら割れ砕けるガラスの量に感心するうちに終わってしまった――と、ひとまず常識的な感想は〆ておいて、
この監督、スネイプファンのツボにやたら目配りしてないか?(爆)
「謎のプリンス」でも感じたのだが、4作目までのピントのずれたスネイプ先生活用から打って変わって、5作目、6作目はスネイプ先生的最重要エピソードにしぼって効率的に登場させている。もっとも、その結果、全体の筋の理解に資するかというと別の話だが――5作目におけるスネイプ先生的重要場面は言うまでもなく、閉心術の個人教授(とハリーによるスネイプ先生の記憶の覗き見)とアンブリッジの部屋での「パットフッドがつかまった!」だけど、後者は原作でもその後ハリー達が暴走するので十分生きて来ないし、前者はそもそも映画版ではスネイプ先生の過去と確執は黙殺され続けて来た訳で、今更あのシーンだけ出されても、見る方は判らない。その後もオチないし。いかにもお堅い職業系のジェームズ・ポッターのイメージを映した直後に学生時代のいじめのシーン(原作のえげつなさは綺麗に抜けているが)を持って来るというのは、監督、かなりジェームズに対して意地が悪いな、とか思うのは別次元に堕ちた濃ゆすぎるスネイプファンだけだ(笑)。ただし、あのいじめシーンがあるから6作目ラストのスネイプ先生の台詞がかろうじて生きてくる、とは言える。あくまでも、かろうじて、ひいき目に見れば、だが。しかし4作目までのスネイプ先生の扱い方だと、何の前フリもなくあの台詞を言わせただろうから、それに比べれば大進歩というか。
まあ、つまり、映画版だけ見てスネイプ先生についての二次創作をやるのは無理があると判った。妄想するにしても材料が少なすぎる。勿論、アラン・スネイプの手の動きが、とか、表情が、とかいう方面に萌えて突っ走るというのはアリだと思うが、それはコールバイターズの方法論じゃない。ということで、今後の身の振り方は小説版を読んでから考えることにする。

ハリー・ポッターの国籍問題(番外)

話が進むにしたがってホグワーツとは一体どんな機関なのだ魔法省とは何をやってるのかという疑問が各所でふつふつと湧き上がっているようですが、
英国首相(=ブレアたん)にとって、ホグワーツパキスタンイスラム原理主義マドラサの同類
という補助線を引けば見通しがよくなるのではないか、と仮説を申し述べておきます。作者によればハリーのホグワーツ入学は1990年代初頭との説は小耳に挟んでおりますが、当方としてはハリーのホグワーツ入学は1999年に設定するのが何かと都合がよかろうと。とすれば、9.11はハリーが3年生になった秋の出来事で、魔法界が凶悪犯シリウス脱獄!とかピントのずれた大騒ぎをしている間に世界はヒステリックな方向へ二歩も三歩も進んでおり、かつてのテロ事件に関与したらしい殺人犯逃走中のニュースを聞いた英国首相トニー・ブレア氏の脳裏で、ホグワーツがある種の原理主義に支配されたテロリスト養成学校と認識されたとしても、あながち責められたことではありますまい。しかも過去にその学校の卒業生が関与したテロ事件の幾つかは政府の公式見解ではIRAのせいとかにされていたりしたら、今後万一何かあれば内閣はふっとぶ。ブレア氏が魔法大臣に締めつけ強化を指示するのは当然のことです。そして魔法省が「例のあの人」の復活をひた隠しにするのも同根の理由によると思われます。よりによってこの時期に昔日の凶悪テロリストが復活しました(しかもホグワーツの不手際で)なんてことになったら魔法界ごと魔法省もつぶされかねない。
だから、魔法省はあらゆる手段を用いてホグワーツに影響を及ぼそうとする一方、闇の帝王復活に関しては必死で情報統制をする。ホグワーツが思い通りにならない場合は、ホグワーツ自体をテロリスト認定して切り捨ててしまおうとする。他方、ホグワーツは元来、実質的には魔法省の管轄外であったので、それに抵抗するとともに、自分たちは正義の味方の伝統をしょってると思っているので、卒業生たる凶悪テロリストを私的制裁するべく、勝手な判断で刺客を送る。生徒たちは複雑な政治情勢を理解できていないので、魔法省の横暴に反発して暴走する、と。まあ、とどのつまりはダンブルドアが自分の立ち位置に無頓着すぎるのが最大の問題なのでありましょう。そんなボスを補佐しつつ生徒達に一人前の教養を身につけさせようと奮闘するスネイプ先生の心労たるやいかに。そりゃ嫌みの五つや六つは言いたくもなるさ、可哀想に。
※この項はフィクションです、念のため。