決戦の夏、にせものの夏。

歯車的ボロジノの戦いが始まった。砲弾の音がだんだん近づいて来る感じ。とはいえ、射程距離にはまだ入ってないし(来週入る)、修羅場る仕事というのは、とどのつまり原稿書きなので、空調を切られてくそ暑いオフィスに殉じる必要もないやと言い訳して、とっとと帰ることにした。
――ら、高層ビルの谷間から聞き慣れた、しかしあまりにも場違いな「ケチャ、ケチャ」のリズムが聞こえて来る。ケチャが新宿で聞こえる理由が判らないので、とりあえず「東南アジア風アレンジの盆踊りを地元自治会がやっている」と考えることにして、念のためのぞいてみたら、ほんとうにケチャだった。その名もケチャまつり


ケチャケチャケチャケチャと円陣に座る男たちの声が切れ味するどいビートを刻み、お姫様役は凛々しくもコケティッシュにてのひらをひらめかせ、魔王は横暴そうに、ラーマ王子は多分勇敢に踊り、日本語講談口調のナレーションがつく。思いがけない拾い物に元気になって帰宅したが、パンフレットによれば今回34回目とのこと。当方新宿勤務歴7年目だけど、こんな楽しいお祭りをやっているなんて、今までついぞ気づかなかった。新宿は時々意味不明に奥が深い。
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持病の検査で久しぶりにMRIに入る。大腸内視鏡みたいに事前の準備が大変という訳でも、胃カメラのようにエイリアンに陵辱される気分を味わう訳でもないから、受ける身としては楽な検査である。棺の中でガンガン鳴るいろんな音をポリリズムとかよろこびながら聴いているうち、気持ちよくなって寝てしまう。痛みって身体のもう一つの思考なんじゃないかと、半分眠りつつ考えていた。その辺はまたいずれ。ひょっとすると私は言葉の届く範囲を買いかぶっていたのかもしれない。
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真っ昼間の戸外で気持ちよく本が読めて汗もかかない8月ってのは非常に間違っているのではないかと思うが、冷夏にもめげず都心の蝉はすごいことになっていた。みーんみーんもじーじーも一緒くたになって、密なることゴキブリ・キューブのごとし。
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見る前に跳べと言いながら、うっかりダーントン教授の「壁の上の最後のダンス」と一緒に注文してしまったせいで小説版がいっこうに届かないので(「壁の上〜」は今出版社の倉庫を当たってますとかメールが来たが、どうなることやら)、やむなく見逃していた映画から見てみることにした。蛇猿先生の活躍はいかに。

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――てか、これ4作目の映画化? 「だが吾輩はここに留まる」とかラストの「やってくれるか、セブルス」とかは何処に? これじゃ、スネイプ先生、盗難事件の見当違いの犯人を追いかけまわしていただけの間抜けキャラだ。なんて可哀想な。そしてスネイプ・パートがズタズタなので、まして全体はわけわかめ。少年ジャンプ風学園ものをやるにしても、もちっとご都合主義を排除できたのではないかと思うのだが。こうして見るとアズカバンはレベルが高かったんだなと思う。独自の話になっていたし。スネイプ先生的文脈は見事にズタボロだったけれども(笑)。

それにしても、あんまり頭のいいとは言えないごろつきの一団すら取り締まれないで恐慌におちいる魔法界の公権力的インフラはどうなっているのか。
――つまり、無いのである。ホグワーツ的旧秩序を魔法省的マニュアル化(含む法整備)が解体してゆく産みの苦しみがはりぽた全7巻の要約なのだ。(いや、多分違う)
とすると、ハリーは抵抗勢力なのか。‥‥ハリー、君は勿論郵政民営化に反対だろ。このマイクに一言そう言ってくれればいいんだ。そうすれば我々は勝てる。(続くかも)