はぐるま、カメラを呑む。

歯車はのべつまくなしぴいぴい言っていた。何だか判らないが心が圧迫されて辛くてならず、おまけに体調も悪いような気がするからである。このような場合、考えられる原因はそう多くない。

  1. オーバーワークの報いその他の理由により鬱病になりかかっている。
  2. ほんとに体の調子が悪い。

ぴいぴい言いながら医者に行ったら、胃カメラを呑むことになった。
検査技師は「目を閉じると管を意識しすぎてよくないから目を開けて何か見てなさい」とか無理難題を言う。裸眼視力0.04の歯車にまっとうに見えるのは、自分の口にずるずると吸い込まれてゆく黒い管だけだ。
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歯車はここにささやかな希望を述べておく。「もし、エイリアンが地球を征服したとして、人類が彼らの子供のエサになってしまうのはやむを得ないにしても、せめて麻酔をするなどして、事前に犠牲者の感覚を麻痺させるだけの手間はかけていただきたい」
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検査台の上に乗せられた人間は、ただの蛋白質製の袋にすぎない。歯車は目を閉じて必死に羊を数えた。
五十匹くらい数えたところで胃にとぐろを巻いていた管は引揚げていった。検査を終えたら面白いようにガタガタ震えはじめた胃を抱え、歯車は病院のロビーで皆既日食の中継を見た。
歯車を巣食わせている布切れの下のそいつは激しく怒り狂っている。ぴいぴいの理由は1の線がますます濃厚になった。
――さて、どうしよう。