2016夏マルメ・スコーネ・麦畑ぼんやり行(4)

coalbiters2016-08-13

水辺の遊歩道を歩く。

住み心地のよさ、あるいは街を住みこなしている感覚。

 運河沿いの遊歩道を散歩して感じたのは、ちょっと驚くほどのストレスのなさだ。緑が多い、水が流れている、鳥が沢山いる、人混みはない、しかし人通りが全くないのではなく、視界には誰かしら(特に女性やお年寄りや子供連れのパパやママ)いるので、誰にも気づかれずに身ぐるみ剥がれる的な状況は想定しづらい。バスが頻繁かつ密な網目を形成する一方で(複数路線走る場所では団子も珍しくない)自家用車は少なく、排気ガス臭さに鼻をつまむこともない。旧市街の街並みはおおむね歳月を経た様子だが、歴史的建造物の保存を墨守している訳ではないようで、いろいろな時代の様式が入り混じり、適度にごちゃごちゃしている。いずれも多少の格式は備えているが、荘厳だったり壮大だったり壮麗だったりといった次元にはほど遠いので、気楽に歩き回れる。実際、中心部は徒歩スケールの街であり、至るところにベンチが設置されており、足が棒になる気遣いもない。広場には日常的に野菜や果物やのみの市が出、買うにも眺めるにもただ通り過ぎるにも目に楽しい。等々。
 まあ、中心部だし、観光エリアだし、夏休みではある。観光名所には観光客の、地元の遊び場には青少年の多幸感が満ち溢れている。日も長いし、気候も快適だし(ただし、夏にこれだけ風が強いのだから、冬は結構厳しいのではないかとは思う。いくらスウェーデン的には南国で、ニースとかそういうロケーションなのかもしれないにせよ)。それにしても、この住み心地の良さはどうしたことか。日本語で読める治安関係の情報をぐぐって引っかかるのは、マルメはスウェーデンの中でも治安が悪い、「何故なら」移民が多い「から」で、移民による暴動も頻発しており云々といった記事ばかりであり、この通りであったら、一体どんなに荒んだ街なのかとおののかざるを得ないおどろおどろしさだったからだ。確かに、外国にルーツのある住民は多いらしく、金髪碧眼的ないわゆるスカンジナビア人ではない、肌が黒く露出の少ない服を着てヴェールを被った女性などが普通に歩いている。では、治安が悪いか、というと、少なくとも私が体験した範囲では全くそんなことはない。一度だけ、ショッピングセンターの窓に何か投げつけられたような穴が開いているのを見かけて、ちょっとびびったくらい。そして、外国人や移民の多さが治安の悪さと即座に結びつくかというと、当然のことながらNOだ。そこに因果関係が生じるためには、それなりの複雑なバックグラウンドが必要になる。
 なお、今回の旅では、ヨーロッパを旅行すると大抵一度や二度は遭遇する、「黄色人種の前に立ってこれ見よがしに差別的な独り言その他の嫌がらせをする不愉快なおっさん」に出会わなかったのも、快適だと感じた理由の一つかもしれない。単独行動の女性が続くあたりを狙って列に割り込んでくる卑怯者の糞野郎はいたけれど、それはまた別の話。気軽に表出しちゃうのはむしろそっちの方なんだ、とは思った。

水辺の遊歩道と街なかの生き物たち

 それにしても、中心部だし、観光エリアだし、夏休みだとしても、この居心地のよさはどうしたことか、と首をひねりながら街を歩く。下の写真はグスタフ・アドルフ広場。多分、市役所前の、昔の王様の騎馬像がある広場よりは庶民的な場所との位置づけらしく、青物市が出ていて、地に足がついた感じがいい。マルメ市の紋章グリフォンのモニュメントがあるが、細部まで公的な堅苦しさを維持するつもりはないらしい。

(マンホールの蓋の市の紋章)

グスタフ・アドルフ広場の天球の上に堂々と鎮座するグリフォンの像)

グリフォン像の細部。こいつ、腰パンでスケボか何かしてますよね?)
 このモニュメントの細部に限らず、街中には時々変な彫刻があったりする。

(建物の間の体操選手。お固そうな建物なのだが)
 水辺には鳥と猫たちがいる。鳥は本物だが、人に苛められた経験がないらしく、人間のことを舐めくさっており、カメラを向けても動こうとすらしない。ちなみに、私はここではじめて白鳥の雛を見た。確かにこれは醜いアヒルの子だなあ。灰色で、もしゃもしゃしていて、複数セットでいると水辺に巣食う謎のモンスターみたく見える。



 こちらは水辺を散歩し、くつろぐ猫(の彫刻)。彫刻の猫だとか、猫の足跡(のシール)は街の中でよく見かけたのだが、本物の猫にはついぞ出会わず。室内飼い専門なのだろうか。水辺の彫刻には他にも、持ち主のいない鞄や老若男女の靴などがあり、「収容所に送られたユダヤ人を記憶するためなのか?」と一瞬思ったりするものの、単に名もなき一般市民の遺品をモチーフにしたものらしかった。
 とはいえ一方で、ラウル・ヴァレンベリ(ワレンバーグ)の名前を冠した小公園があったり。日本人に判りやすく説明するなら、スウェーデン杉原千畝みたいな人で、ハンガリーで本来何の根拠もない通行証を発行しまくって多くのユダヤ人を救ったが、侵攻してきたソ連軍に拉致られ、そのまま行方不明になった外交官だ。マルメと何らかの関係があったのかは不明だが、とにかく大理石のモニュメントがあって、鴎たちの憩いの場になっていた。

(続く)

(夏の公園では、人間も彫像もあられもない格好でごろごろしている。遠くに見えるのは、スカンジナビア随一の高層建築ターニング・トルソ)