2016夏マルメ・スコーネ・麦畑ぼんやり行(2)

coalbiters2016-08-07

なぜマルメなのか:まずは実用的情報。

オーレスンド海峡の木更津としてのマルメ

 なぜ猛然とマルメに行きたくなったのかの理由は幾つかあるのだけれど、旅行的観点から言えば、単純に行くのが便利だからだ。マルメはスウェーデン南部の都市だが、地図を見れば判るように、デンマークの首都コペンハーゲンの海向かいだ。で、両者の間にある海峡には近年橋が架かって、鉄道だと30分ほどで行き来できると言う。両国はシェンゲン圏内なので、原則として国境でパスポートを見せる必要がない。つまり、成田から直航便でコペンハーゲン国際空港に着いたら、鉄道でコペンハーゲンに向かうのとほぼ同じ簡便さでマルメにも行ける。しかも、マルメの場合は、海を渡る、国境を越える、オーレスン・リンクという土木インフラを堪能する、という楽しみまでオプションで付いてくる。ならば、マルメの駅前に宿を取って、必要に応じてコペンハーゲンに通えばいいじゃないかと思った。千葉のホテルに泊まって、東京に遊びに行くようなものだ。千葉都民としては親近感を覚える。
 実際、コペンハーゲン国際空港からマルメに行くのは非常に簡単だ。鉄道駅は空港直結、券売機はタッチパネル式で説明は英語表記が選べ、マルメ中央駅とかコペンハーゲン中央駅とかの主要行き先候補は、はじめからスクリーンに表示されるから、目的の駅名に触れるだけでいい。支払いに関してはクレジットカードが極めて幅を利かせているので、ICチップ付きのカードを持っていて、かつ暗証番号を覚えてさえいれば、現地通貨のコインがなくても購入できる。少なくとも空港駅では、おたおたしていると、日本基準ではコミュ障に分類されそうな係員がぶっきら棒かつ親切に対応してくれる(ちなみに他の駅には、うろうろしている親切な係員は基本いないので、空港駅で大いにおたおたして、係員を使い倒して習熟しておくといいと思う)。ダイヤは20分に一本なので、おたおたして一本逃したとしても、基本、大惨事にはならない。
 とはいえ、当初予想していたほどには便利ではない。まず、料金がそんなに安くない。コペンハーゲン空港とマルメ中央駅の片道は、デンマーククローネで89DKK、スウェーデンクローナで110SEK、日本円に換算すると1300円超だ。往復で買えば多少の割引はあるのだろうけれど、気軽に日参できる値段ではない。次に、国境でのIDチェックの存在だ。2016年1月からスウェーデンデンマークの国境でIDチェックが行われることになり、コペンハーゲン方面からマルメ方面への直通列車は休止となり、全てコペンハーゲン空港駅での乗り換えとなった(国内へ流入してくる難民の増加に根を上げたスウェーデンによる措置なので、逆方向にはそのような対応はない)。空港駅ではホームに入る前に、デンマーク国鉄の係員に写真付身分証明書の提示を求められる。さらには、スウェーデン側の最初の駅Hyllieでも、当面スウェーデン警察によるIDチェックがある。結果、デンマークからスウェーデンへの移動に通常ダイヤ以上の時間がかかることになった。私はHyllieのIDチェックには遭遇しなかったけれども(もうやっていないのか、夏休みで警察官が足りなかったのかは不明)、駅ではかなり長い間停車していた。おかげで空港駅からマルメ中央駅までの4駅で40分位かかったと思う。オーレスン・リンク自体は10分かかるかかからないか位で通過してしまい、夢のようだった。

空港、橋、海底トンネル。そして風力発電の森

 デンマークスウェーデンを結ぶオーレスン・リンクは全長およそ16キロ、デンマーク側から順にトンネル部、人工島ぺベルホルム(近くに天然島サルトホルム(=塩の島)があり、それとの対比で胡椒の島になったらしい)、約8キロの橋梁部からなる。全長約15キロの東京湾アクアラインと距離的にはほぼ同規模だ。各種資料によれば、海峡を結ぶアイデアは20世紀初頭から何度も検討されていたものの、政治的・経済的条件が整った1991年、スウェーデンデンマーク両政府が建設に合意し、1995年に海峡部の工事着工、1999年に竣工し2000年から供用が開始された。時系列的には、英仏海峡トンネルの1994年、東京湾アクアラインの1997年、あるいは本州四国連絡橋の児島・坂出ルートの1988年(ちなみに、瀬戸大橋は2008年にオーレスン橋と姉妹橋になっている)、神戸・鳴門ルートの1998年、尾道今治ルートの1999年などに続く時期ということになる。特にヨーロッパ北部に焦点を当てるならば、デンマークでは、ユトランド半島とヒュン島の間のリトルベルトが1980年代に架橋され、コペンハーゲンのあるシェラン島とフュン島を結ぶグレートベルト・リンクが1998年に完成しており、オーレスン・リンクの完成によって、スカンジナビア半島が大陸に直結した訳だ。ヨーロッパの政治・経済的な統合と歩調を合わせて進んだ、ヨーロッパの物理的な連結、と言えるだろうか。

 写真はマルメの海岸から眺めるオーレスン・リンク。マルメの海岸からだけでなく、コペンハーゲン国際空港に向けて降下する飛行機の窓も含め、海峡周辺のあらゆるところから目撃される。眼下の海上に、あるいはたぷたぷと波打つ透き通った海水と低いところを素早く流れてゆく雲の列という天然そのものの光景の中に、定規で引いた線のように唐突に出現する橋のシルエットは何とも非現実的だ。橋の近くの洋上の数十基の真っ白い風車が林立する巨大風力発電所ともあいまって、人間が存在せず、機械やシステムだけが淡々と働き続ける別の世界を連想させる。
 とは言え、現実には橋はそこにあり、毎日橋を渡ってスウェーデン側からデンマーク側に、あるいはその逆に通勤する人々がいる。東京湾アクアラインが千葉県の木更津と神奈川県の川崎を15分程度で結ぶことで「千葉県の半島性が解消され、…対岸地域との文化交流が身近なものになるとともに、首都圏の物流が一層活発になる」(千葉県ホームページより)ことを企図して建設されたように、オーレスン・リンクは海峡両岸の370万人の人口を擁する地域を一つに結びつける役割を果たしていると、管理会社のホームページは謳っている。一方で、最近のスウェーデンの報道は、国境でのIDチェック開始から半年を経て、通勤客が被っているさまざまな不便について報じていた。通勤時間が倍になる、直通列車がなくなった、混雑するので座れないといった問題にとどまらず、デンマーク側での仕事を辞めざるを得なくなった人もいるようだ。それでも高所得者は電車通勤をあきらめて自家用車での通勤に切り替えることもできるが、それが難しければ仕事を替えることも含めた不便を甘受するしかない。皺寄せは低所得者に来る、とニュースの中で識者が言っていた。

旅の日程(その2)

2016年7月18日の旅程。
  • 0815/ホテル出発→街歩き
  • 1000/市立図書館
    • Kungsparken
  • 1130/マルメ城/マルメ博物館
  • 1330/ヴェストラ・ハムネン
    • ターニング・トルソ
    • 海岸沿い(Daniaparken/Skaniaparken/Gamla Dockan)
  • 1600/マルメ中央駅着
    • 72時間券の購入
    • 夕食
  • 1700/ホテル着

(続く)