2016夏マルメ・スコーネ・麦畑ぼんやり行(1)

coalbiters2016-08-03

まえせつ:旅の目的。

 本当は、去年の予定だった。何やら猛然と「マルメに行きたいぞ」という気持ちが湧いてきて、旅程をメモった。それはパソコンの前に一年ばかりずっと貼ってあったけれど、「マルメ」「カルマル/エーランド島」「ボーンホルム島」「オーレスンド海峡一周」とか書いてある。かなり現実逃避がしたかったらしい。いくら何でも一週間では無理だろ、その旅程。
 結局、ホテルと飛行機の日程を見比べて悩む段階で去年は諦めた。基本引きこもりの上に疲れる仕事が続いて、ほぼ全く言葉の通じない土地を万難排してうろうろするだけの気力がどうしても出なかったのだ。そうこうするうちに地中海で沈没する船と犠牲者の話題が何度もニュースサイトを流れ、トルコからギリシャ、バルカン、東欧、中欧へと難民の道が出来あがり、それがついには北欧にも達して、スウェーデンでは主要都市の市民が広場に集って彼らを歓迎した。マルメでも歓迎のデモがありましたという報道を読んだように思う。秋が深まってくると各地の難民の収容施設が頻々と放火されるようになり、どこかの学校に乱入した犯人が生徒と先生を殺害し、しかし相変わらずサッカーの試合のたびにズラタン・イブラヒモビッチが言及され、マルメでは中心部?の公園に猪が出たので警察が捕物をし(スウェーデン第三の都市じゃなかったのか)、ロマのキャンプが撤去されるというので支援者が抵抗の座り込みをし、難民の流入に根を上げた政府は国境でのIDチェックを行うよう法律を改正した。コペンハーゲンから鉄道でマルメに入る場合、途中でパスポートを見せなければならない。何ということだ、オーレスンド大橋が東京湾横断道路でなくなってしまうなんて、と思いながら、今年は何としてもマルメに行こうと決めた。ニュースばかり読んでいても、グーグルマップでいくらぐぐっても、今ひとつどんな土地柄なのか判らない。
 ということで、職場のカレンダーに夏休みの予定が入り始めたあたりで、航空券と駅から一番近いホテルを予約した。何しろ一年かけて情報を集めてきたから、余裕をかまして行きたい場所をのんびり吟味していたら、たちの悪い夏風邪を引いて寝たきりになってしまった。咳が一向におさまらない。怠くてたまらない。旅程を組むだけの体力が無い。その一方で、実は意外と使える旅行情報がない。直前になって焦りながら設定した旅の目的は、結局、以下のようなものになった。

  • マルメの街歩きをすること
  • ルンドに行くこと
  • 古代遺跡に行くこと
  • ルネサンス期の要塞にも行くこと
  • いろいろな博物館を見て回ること
  • 新しいカメラに習熟すること
  • チコ・ブラーエのウラニボルグを見に、ヴェン島に行くこと
  • これらの目的のために、いろいろな交通機関に乗ること
  • それを実現するための最低限のコミュニケーションは取ること
  • これらの目的のために、多分田舎の道をひたすら歩くこと
  • とはいえ、あんまり無理はしないこと

 したがって、「美味しい食事」「小洒落たカフェでの休憩」「ホテルに対する高望み」「メジャーな観光地」「買い物」「旅先での人との触れ合い」等々は、今回も旅の目的として想定されていない。あげく、毎日朝四時に起きてはその日の予定を立てるという、自分的には相当に行き当たりばったりな旅になってしまったのだった。なお、実際の旅程は次のとおり。

旅の日程(その1)

2016年7月17日の旅程。

 スカンジナビア航空の食事は、(少なくともエコノミー席では)いつものことながら、「食べる愉しみ」という観点からはセンスの欠片もないものだった。乗客を一定の時間をかけて輸送する以上、一定量の食事を供給して腹を空かせないようにする、という目的に特化したという点からは極めて合理的だとは感じたが、輸送される乗客の身としては、その現実はもう少しオブラートに包んで欲しかったとも思う。なので輸送される途中のささやかな楽しみは、近くの席の北欧系お兄ちゃん二人の行動を眺めることだった。機内が暗くなっている時間帯に携帯オセロ盤を出して額を突き合わせてゲームに熱中しているのは特に微笑ましかった。彼らがゲームを切り上げた後は、折角北欧に行く機会なので「レゴ・ムービー」を鑑賞した。凄く楽しいじゃないか。疲れて音声を切って眺めていたので、帰りは音声入りで観ようと楽しみにしていたら、帰りの便のプログラムには入っていなかった。今回の旅の心残りの一つである。

(続く)