2013夏プラハ+ウィーン観光名所うすかわ編(14)

諸事情により間が空いてしまいましたが、復活しました。あと数回、お付き合いください。

DAY5-3:豪勢な建物において享受するということ(1)

ウィーンと言えば音楽の都だが、音楽の季節は6月末で終わってしまい、7月は音楽的には夏休みなのだった。「…ということなので、オペラを楽しんだりはできないけど」「いいわよ、音楽にはあまり興味ないもの」ということで、当初は音楽関係は全く予定に組み込んでいなかったのだが、旅の計画の常として、「でも楽友協会ホール行ってみたい」「ニューイヤーコンサートやるホールを是非見たいわ。内部を見学できるツアーに参加したい」「むしろ、夜そこでコンサートを!」「…観光客向けだよ?」「いいのよ、音楽にはあまり興味ないもの」そうですか、という訳で、気がついたら楽友協会ホールの黄金の間で観光客向けコンサートを聴くことに。折角なら一等席を奮発しよう、ということで事前にネットでチケットを予約していきましたが、別に予約しなくても、街中で普通に買えますな。何しろ、夜の歌舞伎町の客引きかという人口密度で、やる気のないコスプレした各種観光客向けコンサートのチケット売りが中心部をうろうろしている。日本語喋っていると見れば日本語で話しかけ、脈がないと見るや、次の観光客に韓国語で話しかけるなど、手慣れたものだ。

楽友協会ホールで演奏会を観光する。

いったんホテルに戻って一休みした後、18時過ぎに出発。疲れてしまったので街歩きはせず、カール教会前の広場でぼけっと時を過ごす。目の前の教会は堂々として美しいし、広場は程よい広さで、十分な樹々とベンチがあり、ベンチには人々が鈴なりになって(しかし席が不足する程ではなく)、それぞれに夕涼みしていて、たいへんよい時間だった。この時間帯になると吹く風も涼しく、成程これでは冷房のない夏の室内がいかに劣悪であろうとも、冷房の普及は遅々たるものにならざるを得まい、と思わせられる。
やがて開場時間になったので、楽友協会ホール(道路を渡った向かいである)に移動。予約券をチケットと引き換える。かなりの大混雑である。そして、噂には聞いていたが、内装がすごい。

30分ほど入り口のところにすし詰めになって豪勢な建物を堪能させられた後で観光客は演奏開場に導き入れられる。ここも見事にきんきらきんである。そして、自分の席を確保するや、略奪に励む蛮族の勢いで写真を撮りまくるお客の皆さん。いや、私もちょっとは撮りましたけども。

タブレットでぱちり、のおばさま。

他人とアングルが被っても気にしない。
何と言う躁状態。「私たちは!あの有名な!楽友協会ホールの中にいる同志なのよ!」とでも言わんばかりの多幸感。こういうのを観光地ユートピアとでも名付けるべきだろうか。いろんな人がいるが、欧米系とアジア系が大半だ。前者は夫婦で来ている人が多く、服装はラフなものから結構気合いの入ったものまで様々だが(旅の目的か街中で客引きに引っかかったかの差だろう)、ともかく夫婦でレベル感は揃っている。対するに、アジア系で一番目立つのは、多分中国人の団体客で、こちらは団体だから複数の家族なのだが、男女で服装のレベルが雲泥の差で面白い。母親と(多分ピアノかバイオリンかバレエを習っていそうな)娘はばっちりドレスアップしているのに、父親と思しき人はそこらのTシャツだったりする。何だこの既視感。バブルの頃までの日本の団体旅行みたいな。「レストランとか演奏会は正装すべきなのよ!」「そうカリカリすんな。俺達客なんだから問題ないだろ」とか。多分。そうこうしているうちにホールは聴衆でいっぱいになる。これはちょっとびっくりした。実はプラハの最後の夜にも、チェココルナを消費するためにちょっとこじゃれたところで食事でもするかと街に出たところ、コンサートの客引きに引っかかって、市民会館のスメタナ・ホールという、これも建物は豪華で音響も最高なところで演奏を聴くことになったのだが、可哀想なほどの客の入りで(50人もいなかったのではないかと思う)、観光客向けコンサートというのはそういうものかと思っていたのだった。単にプラハの観光業者はゆるくて、ウィーンの同業者は観光業に対するプロ意識が違う、ということなのか。
コンサートは、モーツァルトの時代のコスプレをしてモーツァルトの有名な曲を演奏するという趣向で(しかし、最後は何故かラデツキー行進曲)、オペラの抜粋では、男女二人とは言え、歌手が多少の演技を交えて歌う。演奏そのものは、下手ではないけれども、魂が震えるといったほどでもない。何というか、つい最近まで20年ほど、冷戦後もしつこくレニングラードの名を冠してほぼ毎冬来日公演していたバレエ団がありましたが、そこの(プリンシパルではなくて)ソリストがガラ公演で主役を張っている感じ、というのが私にできる最も正確な説明である。上手いけれども声量に乏しいとか、声量は十分で態度も堂々としているが、表現は極めて大味で、いい奴だけど残念ながら伸びしろはあまりなさそうだとか、頑張っているけれどもどこか音がぼやけてしまうとか。といった演奏技術上の弱点をキャラを立てることで補って、エンターテインメントとしては、何だかものすごく楽しい経験であったぞ、と思わせるところとか。
ということで、意味不明に楽しい時間ではあった。指揮者兼オーボエ奏者のおじさんが特に芸達者で、とんがったりいい加減だったりする若手とひねくれたベテランの組織を率いて孤軍奮闘する苦労人のリーダーみたいな風情があり、そう思うと、森脇真末味描くところのロックバンド漫画がおのずと連想されてきたりするのである。
『緑茶夢』

緑茶夢(グリーンティードリーム)―スラン (小学館文庫)

緑茶夢(グリーンティードリーム)―スラン (小学館文庫)

とか、
『おんなのこ物語』とか。才能はあるけどやさぐれている若者とか、今の仕事は単なる腰掛けで成功を夢見ている女の子が友情に目覚めるとか、観光客相手のコンサートなんか芸術じゃないと怒る青年演奏家と、これはこれまで芸術に縁が無かった人々に芸術を届ける活動なのさと実はひそかな理想に燃えるリーダーと、一層ビジネスライクに、効率的に金儲けをしようとする出資者の青年実業家の三つ巴の愛憎劇とか、一回30ページ12話完結くらいで、読んでみたいではないか。客席の人間模様も忘れてはいけなくて、私の席の近くにいたおじいさんは、先入観で想像するに、ちょっとしたスーパーマーケットのチェーンを築き上げて引退した田舎の名士みたいな感じで、曲の間は全身を耳にして聴き、曲が終わるたびに大喜びして全身で喝采するのだが、同伴の若い女性(娘? 若い妻? 愛人?)はといえば、たえずつまらなそうに室内を眺め回し、演奏中でも傍若無人にシャッターを切っていたりするのだった。外伝も入れて全15話、書き下ろしつきで単行本3巻。いかがでしょう。
コンサートの終了は22時。さすがに暗く、涼しい。建物からぞろぞろ溢れ出る人の群れにまぎれ、夜道の危険など全くなさそうなまったりとした大通りを歩いてホテルに帰る。続く。

2013年7月3日の旅程。
  • 0730/ホテル出発
    • カールスプラッツ駅/カール教会/ウィーン工科大学
  • 0750/カールスプラッツ駅
  • 0810/シェーンブルン駅着
  • 0815/シェーンブルン宮殿
    • 宮殿/ネプチューンの噴水/グロリエッテ/日本庭園/温室/昼食
  • 1230/シェーンブルン駅着
  • 1250/ショッテンリンク駅着
    • ドナウ運河/カイザーバード水門監視所/ルプレヒト教会/郵便貯金
  • 1350/シュトゥーベントア駅着
  • 1355/ヘレンガッセ駅着
  • 1400/王宮着
    • シシィ博物館/皇帝の居室
  • 1530/デパ地下で買い物
  • 1545/ホテル着
  • 1800/ホテル出発
  • 1915/楽友協会ホール着
    • コンサート(2015-2200)
  • 2215/ホテル着