2013夏プラハ+ウィーン観光名所うすかわ編(7)

coalbiters2013-07-27

DAY2-5:庭園都プラハ

午後は川を渡って、マラー・ストラナ地区へ。前回プラハ旅行で考えなしに道順のショートカットを試みて、想定外のところに出てしまい、一時間ばかりうろうろしていた因縁の地である。今回は迷わず行きつけるだろうか。

ヴルトボヴスカー庭園。

とはいえ、本丸プラハ城の攻略は翌日なので、この日は麓の各所から見上げては「こんなに近づいたのに、まだ到達できない」とカフカの城的欲求不満を味わうのが主眼である。まずは、プラハ城の向かい、ペトシーンの丘の斜面にある18世紀前半のイタリア式バロック庭園から。
事前情報によると、道端に案内板はあるが、入口が奥まったところにあるので、そのつもりで探さないとたどり着けないとのことで、確かに賑わうレストランの横に「たいそう美しい庭園です。ぜひご覧ください!」みたいな宣伝がひっそり立っていたが、これを見てその場で心動かされる人はそう多くはないのではないだろうか。よって、みなさまのプラハ観光の検討資料とするために、庭園のホームページを紹介しておく。

案内板のうながしに従って建物をくぐり抜けた先の中庭(裏庭?)。この先にチケット売り場があり、庭園がある。写真右はチケット売り場の壁。ここも館の何かの部屋だったのか、趣深い板絵が一面に。チケット売り場のおばあさんはえらく親切で、「あなた学生さん? ああ違うの残念。でもあなたのお母様はシニアでしょ、割引にしとくわよ。旅のお金は有効に使わないとねー」と、こちらが言い出す先に算段をつけてくれたのだった。パンフレットを貰って中に入ると、

色鮮やかな壁画と彫刻に飾られたあずまやのようなところに出る。細部も幻想趣味バリバリです。
庭園は斜面に沿って数層のテラスが続く構造。こじんまりとしていて、全く大きなものではない。


薔薇が咲き乱れる庭園を散策する人はごくわずか。鳥小屋があったらしく、しきりと鳥のさえずりが聞こえていた。

貝殻と人魚をあしらったテラスのレリーフ。以前にも言及したミハル・アイヴァスの『もうひとつの街』では、何故か鮫をはじめとする海の生き物が内陸都市プラハの空中を泳ぎまわったりするのだけれども、このような建物の装飾を見ていると、あの空想上の「ボヘミアの海岸」がまさにこの場所に実在するように思えてくる。

テラスの脇の扉をくぐると、微妙なひび割れ具合がたいそう魅力的な、テラスの屋根に通じる階段がある。よくこんなトイレの個室みたいなところに階段を押し込んだ、と言いたくなる狭さで、プラハの人々の箱庭愛をひしひしと感じる。狭い茶室でおもてなしみたいなのは日本人の専売特許みたく言われているが、こちらの箱庭職人ぶりもたいがいのものである。

テラスの屋上からの眺め。大きく見えるのは、マラー・ストラナ広場の聖ミクラーシュ教会。

少し向きを変えればプラハ城も目の高さに迫ってくる。現地では縦方向に伸びる野草と建物の塔のかたちの類似が非常に気が利いていて面白く思われたのだが、私のへぼい写真だと、単に手入れの行き届いていない印象だけを与えてしまうような気もする。いいですか、みなさん、見るべきは植物と建造物の形態的類似性です。そこのところ、よろしく。

上からの庭園の眺め。夫婦で並んで歩く絵がさまになります。結婚式会場としても利用されているそうで、さもありなん。

逞しい石像も沢山あります。こういう石像だったら、ドン・ジョヴァンニでなくても冗談半分、食事に招待するのではなかろうかなどと考えながら、下へ。

ヴァルトシュテイン宮殿:現上院、でも地下室とグロッタ。

表通りに戻ると、レストランが何事もないかのように繁盛している。マラー・ストラナ広場のあたりはひっきりなしにトラムが通り、車も走り、観光客をはじめとする人通りも多く、せわしない。静寂と休息を求めて聖ミクラーシュ教会の中に逃げ込んだところ、確かに静かで敬虔な雰囲気ではあったものの、さまざまな色や模様の大理石を使いまくった内装がたいそう豪華で見所が多く、普通に観光してしまってあまり休息は得られなかった。ともあれ態勢を立て直し、次の目的地ヴァルトシュテイン宮殿へ。ヴァルトシュテインとは、シラーの戯曲の主人公にもなった三十年戦争時の傭兵隊長その人のことで、彼が建てた宮殿が今はチェコ上院となっているのだが、庭園は無料で公開され、週末には建物の内部も無料で公開されるそうなので、ならば折角日曜日なのだから、一つ行ってみようではないか、ということになったのだ。希少な機会を無駄にしない努力は、勤勉な観光客に求められるべき素質である。まる。
裏口のようなところで迷っていると、庭園の方向から来たらしい観光客の団体とすれ違った。建物があって、「トレジャリー」とか何とかいう表示があり、その示す先は地下である。何か、是非見て行けと言わんばかりの説明である。この状況には既視感がある。カレル大学が大学の歴史を展示すると称して地下の中世の遺構を見せびらかしていたクラム・ガラス宮殿というところも、昔のプラハの写真展をやるぞよと称して、私を地下室に誘い込んだ。どちらも展示は口実で、地下室そのものを自慢したいとしか思われないものであった。しかし、今回は一国の上院が、外国からの賓客がもたらした各国の土産を友好のあかしに展示する場所である。よもやーー

…念のために説明すると、部屋の隅に立っているガラス戸棚に賓客の各国土産が展示されている。意見を表明させてもらえるなら、これらの各国土産はどう見てもこの部屋の主役ではない。主役は、明らかに部屋の中央にある正体不明の穴である。この穴は何らかの歴史的重要性を備えているものらしく、後で解読しようと写真に撮ったものの画像が粗くて文字が読めないのだが、説明板添付の図像から判断するかぎり、説明は穴ないし地下室ないし建物の由来由緒に終始しているようである。いいのかそれで。各国土産と諸外国との友好が泣くぞ。

建物の地上部分はこんな感じ。庭にベンチが沢山置かれていて、何ともフレンドリーである。この辺から、母の機嫌が悪くなって来た。先刻の庭園にしろ、この上院にしろ、小さすぎるし、あるべき威厳が感じられないというのだ。確かに全体的に小じんまりしているのは認めるが、そもそも人口だって東京都より少ないくらいの国なのだから、上院の建物が小さくても、それは仕方ないのではなかろうか。建物内部はそれなりに豪華なのだろうが、しかしながらそれを口実に見学しようと言い出せる状況ではなくなってしまった。「どうせ」が言われ始めると、観光におけるシンデレラの魔法は解けるのである。
それでも、ヴァルトシュテイン宮殿の庭園には、その他にも見所としてグロッタがある。鍾乳洞を模したというもので、しかし実態は、黒い葡萄のふさ状のものをうるさいまでに垂らし、間に蛇とか蛙とか一般的には好かれない動物を配した壁であって、そんなにグロテスクな印象はない。

写真左:壁の前に紫陽花が楚々として咲いていた。写真右:グロッタの大写し。にらめっこしている蛙と蛇。
グロッタのあたりをうろうろしているうちに思い出した。写真を撮らなかったのですっかり忘却の彼方だったのだが、前回も「上院の庭園を無料公開」の文句に引かれて、私はこの庭園を通り抜けていたのだった。向かう方角は反対だけれども。
ということで、一日歩き続けてさすがに疲れて来た歯車たちは、池の中島でくつろぐ孔雀などを眺めつつ反対側の出口へ。本日最後の目的地、カフカ博物館へ向かうのだった。以下次号。