非実在の存在をめぐる都市での冒険(2)
スカイツリーの根元を探して。(2013年4月7日)
嵐の夜から一夜明けて、上々天気の浅草界隈を徘徊した。
桜はすでに散りかかり、スカイツリーだけが銀色に光る。
前日の大雨で隅田川の水が溢れたらしく、周囲は潮のかほりがもの凄かった。
隅田公園の一帯は東京大空襲時の仮埋葬地だったため、言問橋のたもとの木陰に記念碑がひっそりと立っている。その横には空襲時に大勢の犠牲者を出した旧言問橋の縁石が置かれていた。確か欄干が同じ趣旨で江戸東京博物館の敷地に設置されている筈。
過去を知らぬげに青空にそびえ立つスカイツリー。どこからも邪魔にでかく見えるが、今日は本当に地面から生えているのか、その根元を確かめてくるつもり。
胡乱な空模様の下の濁った川には、カモメだかユリカモメだかが大挙して浮かび、人間たちはと言えば、フィンランドからやって来た似非ジプシー楽団の演奏とともに川をのぼる。シュールだ。
建物の背後に現実離れした遠近感でそびえるスカイツリー。根元はあの辺か。
突き当たり。駅の向こう側から生えているとおぼしい。
線路が邪魔をして、どこまで行っても向こう岸に着かぬ。
とうとうこんなに離れてしまった。しかしスカイツリーの根元に踏切が存在するのは、この世界の仕様として許されるのでしょうか。何だか、スカイツリーが昭和の時代に闖入したエイリアン製の構造物のように見えてきたぞ。
「東京スカイツリーまで333メートル」――もう疲れたよ。
この世界の造物主は、何があっても私をスカイツリーの根元に到達させないつもりらしい。もういい。
そしてどこかにあるスカイツリーの根元に近い場所に、「生コンクリート工場発祥の地」の記念碑があった。「今後も社会基盤を支えていくことを願い、記念碑を建立いたします」とのこと。
昭和24年に生コン工場が稼働し、殺伐としていたであろう場所は、今ではこんなオサレな親水路に。古い感覚を残す向こうのビルも、いずれはガラス張りの21世紀仕様に変わっていくのだろうか。
結局、スカイツリーがどこから生えているのか判らず――やっぱり本当に実在しないんじゃないか。