鉄道の止まった東京を歩く。

職場は高層ビルなので、東北の巨大地震でゆらゆら揺れて、余震のたびにもゆらゆら揺れて、午後は全く仕事にならなかった。同僚のうちには災害対策本部のようなところに詰める人もあったが、私は職場に居ても役立たずなので、定時が過ぎたらとっとと帰ることにした。とは言え、それだけでは申し訳ないので、帰宅途中に気づいたことをメモしておく。大都市における避難訓練の反省のようなものと思っていただければさいわい。ちなみに私は、18時30分から22時までかかって、新宿駅から錦糸町あたりまで、靖国通り京葉道路の一本道をひたすら歩きました。

帰宅するか残留するかの判断

子供やお年寄りの面倒を見なければならない等の理由で何があっても帰宅しなければならない人以外は、以下の条件を考えあわせて判断すべき。

  • 職場や職場の周辺が安全かどうか。当面食いっぱぐれない程度の食料が確保できるか。これがクリアできるなら、災害の内容や程度にもよるが、帰宅を急がない方がいいかもしれない。
  • 自分の体力で徒歩で自宅まで帰宅できるかどうか。まず、沿道は大量の帰宅者で混雑しているので、距離から想定される時間の3割増しの時間がかかる。地震で建物が壊れていたりすれば、もっとかかる筈。仮に途中で気分が悪くなっても、車道は渋滞しているのでタクシーとかバスに切り替えるのはほぼ不可能。まして救急車なぞ来てくれない。
  • 帰宅したとして、翌日以降動けるだけの体力が残っているか。災害の場合は当日だけでは終わらない。翌日寝込むような体力なら無理しない方がいい。
  • 電車の運行情報、現在の時刻、その他想定される懸念材料(ターミナル駅周辺の混乱など)等の全般的状況。全行程歩いて帰れない場合、ターミナル駅周辺で滞留する可能性が高いが、その場合のリスクはどんなものかなど。
  • 気象条件及び自分の装備。室内にいると外気温や風の強さなどは判らないが、気象条件によっては、それだけでかなり消耗する。後は特に自分の服装。女性はピンヒールなど履いている場合は基本的には諦めた方がいいと思うよ。

個人的には、次があれば職場周辺でできることを探した方がいいかなというのが実感。

帰宅に際し準備すること

  • 自宅までの地図もしくはそれに類するもの。しかもできるだけ道順は暗記しておく。幹線道路は帰宅者で一杯なので常に一定の速度で流れていくことが大事。道端で近隣地図に溜まったりすると渋滞になる。
  • ペットボトルの飲み物。及び保存がきいて栄養価の高い食べ物。幹線道路であれば、沿道にコンビニは多いが、外から見た限り、食べ物は払底していた。夏であれば飲み物だって残っているかあやしい。
  • できる限り充電した携帯電話等。ただし歩きながら画面に集中すると一人だけ速度が乱れて渋滞が生じるので取扱いには注意。
  • 歩きやすい靴。気候にあい動きやすくかつ丈夫な服装。一日程度屋外にいても耐えられるかどうか考える。今の季節なら喉を保護するものは必携。空気がよくないことを想定してマスク。頭を覆うもの。できればヘルメット。
  • 最小限の荷物。

徒歩帰宅中注意すること

  • 決して無理をしない。安全第一。体力確保第一。帰ると決めたらとにかく自宅に無事帰り着くことだけに全力を集中する。
  • 行列を乱さない。行列の乱れに巻き込まれない。行列が乱れると進む速度にムラが生じ、危険も増すし体力も消耗する。なので、走らない。集団で団子にならない。周囲の店などに気を取られてふらふらしない。携帯電話の画面に集中しない。そういう人の周囲からはできる限り離れる(追い越すなり迂回するなり)。ペースメーカーになりそうな人を見つけたら、ひたすらその人の背中について行く。風よけにもなるし。このあたりはマラソンなどやっている人にはいろいろノウハウがあるかも。
  • 一応周囲の会話に耳を傾ける。ガセもあるが、役に立つ情報もある。自分の周辺にどのようなタイプの人がいるのか判断する要素にもなる。
  • 催してきたら早目に解決する。防災の協定を結んでいるコンビニ等はトイレを開放しているところが多いが、利用する人も多いので、大抵並んでいる。また、中心部から郊外に向かうにつれ、間隔は開いてくる。
  • エネルギー切れする前に早目の補給を。カフェや飲食店はそれなりに盛況で、中の人たちは結構まったりと休息している様子だった。ただし、暴飲暴食はしない。ふだんしなれない運動をしている人は特に。いつもと違う条件で、いつもと違う刺激を受ける場合、催すのは小だけとは限らないし。
  • ターミナル駅周辺はできるだけ避ける。ただ通り抜けるだけの人、タクシーやバスを待つ人、公衆電話をかけるために並ぶ人、買物に来た人、飲み屋に向かう人、鉄道の再開を待つ人等、目的の異なる複数の集団が錯綜しており、人口密度の高さもさることながら、かなり殺伐とした状態になっている。万が一パニックが生じた場合が怖い。

徒歩帰宅中助かるなと思ったこと

  • 歩道がきちんと整備されており、障害物が無いこと。路面のデコボコは意外と体力を消耗するし、夜間は段差が危ない。ビバ・インフラ。駄目なのは放置自転車。そこだけ道の幅が狭くなるので団子が生じ、行列が乱れる。放置自転車絶対反対。さらに言えば、よく舗装されてゴミが落ちていない状態で、歩道のキャパシティは一杯。よって沿道の建物が崩れているなどは論外。二次災害防止のためにも、建物の耐震化はマスト。
  • ニュースの提供。都心部では電光掲示板。その他では沿道の電器屋さんが店のテレビをつけてNHKの災害情報を流してくれたこと。あるいはラジオを店外に出して同じく災害情報を流してくれたこと。
  • 周辺の避難場所等の情報。「トイレ利用できます(○○保健所)」のような表示。また、近隣の避難所までの地図の貼り出しなど。
  • 店の特徴を生かしたサービスの提供。沿道の靴屋スポーツ用品店が運動靴を店先で販売するなど。飲食店でも「お茶、トイレ無料」の表示があると、それだけでも心強い。

その他

  • 新宿から市ヶ谷までは西に向かう人波に逆らって東を目指したのが、須田町あたりからは千葉方面に向かう人が圧倒的になった。そしてその間、行列は歩道(と一部車道)一杯に広がり、途切れることがない。東京における昼間人口の多さを実感した。
  • とにかく、新宿から錦糸町まで10キロかそこら、人の波が全く途切れなかったのがとにかく驚きだった。そして誰もがさも当然のように淡々と歩いているのも。ただ、今回は沿道の被害と言っても看板がひん曲がったりタイルが剥がれたり、といった程度だったので道を辿るだけでよかったけれども、もし障害物などが沢山あるような状況であったら、この大量の人が滞留してどうなってしまうのか、恐ろしくもあった。職場に留まれ、と言ってもどの程度の職場にそのキャパシティがあるのか、とか。
  • 店を開けていて「温かいお茶、トイレ無料です。どうぞ」と書いてあったのは嬉しかった。店を閉めていたけれども避難所の地図を貼ってくれていたのも有難かった。店先で運動靴売る靴屋とか、災害情報流してくれる店とか、ちょっとした機転が大いに助かる。とはいえ、あくまでも「自分の身は自分で守る」が鉄則。沿道の親切はあくまでもオプション。

……以上、筋肉痛と腰痛で眠れないのでつらつらと書き連ねてみました。最後になりましたが、あらためて今回の災害で亡くなられた方の冥福と、被災された方の無事をお祈りします。また、今現在も救助活動その他にあたられている皆さんに感謝と敬意を表します。昨夜の東京でも、交通整理や交番のお巡りさんはじめ、消防の人、沿道の店の人等たいそう頼もしかったです。