JPP! JPP!

長い夏がようやく終わった。と思ったら寒くて震えている。もう11月だということが信じられない。私の心積もりでは、今は10月初旬の筈なのだ。誰かにどこかに1月分を盗まれたような気がしてならない。それとも私が輝く空飛ぶ円盤にでも拉致られていたのか。ともかく、10月最後の金曜日の午前中に最後の〆切仕事を終えて、にわかに脱力した体をひきずり、Nordik Treeの公演2回、JPPの公演1回に心ゆくまで浸かって来た。この余熱で今年いっぱい乗り切るのだ。ヘイ!

  • JPP武蔵野公演(2010年11月3日@武蔵野市民文化会館)

JPPとは、フィンランドの農村楽士ペリマンニの伝統を継ぐかの国のトラッド・グループで、日本郵便のパチモンとかでは断じて無いーーというあたりから説明しないと一般には話が通じない。多分。残念ながら。主催の武蔵野市民文化会館は、今時ワープロで作ってるんですかそれ、みたいな白黒ビラが特徴だが*1、グループの日本での知名度の低さには苦慮しているようで、「伝説のチャンピオン 夢か?奇跡か!伝説のフィドル軍団が遂に初来日」とか「最初で最後の来日か!絶対にチケットをゲットだ!」とか、どこのスポーツ新聞?な文句で煽る煽る。私のゼミの先生は、武蔵野市民文化会館に言及した時、「フィンランド民族音楽なんていう誰が聴くのというようなマニアックな公演もやるのだが、ビラのキャッチで結構お客が集まるらしい」とか心ないことを言っておりましたが――心待ちにしていた人間が目の前にいるよ!(笑) ちなみにビラの実物はこれ
しかし、いくら伝説のバンドと言っても、創設は1980年代、ビラによれば「今や年に10回以下しか公演を行わない」らしいので、文字通り伝説になっちゃっているのではないかと密かに危惧していたのも事実。何しろ構成メンバーは3世代に渡るから、最年長はかなりのじさまだろうし。
いやいや、とんでもなかったよ。若者言葉で言うところの「△(さんかく)」てのはこういう時につけるんだろうな――マウノ伯父△!ペリマンニ△!!
JPPの主要メンバー2人が参加しているNordik Treeではインタープレイが音楽の構造そのものとして編み上げられ、立ち上がっていくのを、その同じ場所で見/聴くのがこの上ない喜びだった。それに対してJPPではインタープレイはより開けっぴろげに、場に対して作用する。MCは大学の講義みたいに曲名と由来を淡々と説明するだけ*2、メンバーも時折嬉しそうな表情になるほかは淡々と演奏するだけなのに、こちらはわくわくして、踊り出したくなってしまう。Nordik Treeの公演の時よりもさらにロケンロールにラジカルに、今にも壊れそうな140年もののハーモニウムを鳴らしながら終始幸せそうなほほえみを浮かべるティッモ。ハーモニウムの脇に陣取って、背筋をぴんと伸ばした端整な弾き姿でアグレッシブに飛ばしまくる最年長のマウノ――たまに口の端だけ上げてにやりと笑うのがたまらない(私の中では彼のあだ名は「鬼将軍」になりました。音楽の国の将軍)。そして二番手の位置でマウノを立てながら、悪戯な弟のように会場を見回しながら、豊かなニュアンスを曲に付け加えるアルト。彼らにとっては演奏するのは呼吸するのと同じくらい自然なことなのだろうと感じる。つまり、人前で、お客さんも自分たちも楽しむために演奏することが。だから、本当は椅子なんか取っぱらってしまって踊りたいやつは踊れ、な会場で聴くのが一番なんだろう。椅子に座っていると、会場の一体感を表明する一番安易で手っ取り早い方法は手拍子になってしまうから。でも、ラデツキー行進曲ふうの手拍子では到底、ペリマンニのスウィングは追いきれない。
肝心の音楽は――フィドルの最初の音が鳴った瞬間、脳みそが爆発したので、全く詳述できないのだけれども*3フィンランドの伝統音楽だけでなく、タンゴやジャズや、ジプシー音楽や、オリジナル曲や、様々なジャンルにわたっていたことは特筆しておきたい。伝統音楽自体がバロック音楽や2,300年前のポーランドの音楽を消化吸収したものであるように、ペリマンニの音楽は時々の流行を咀嚼してなお進化中、なのだった。キートス。

*1:しかしマイナーだが良い公演を沢山やっているし、きちんとお客も集めている、とは私のゼミの先生談。

*2:実際アルトはシベリウス・アカデミーの先生らしい。

*3:この辺にいっぱいあるから聴いてください。