フィドル、アコーディオン、ハーモニカ、音、音、etc.‥‥

coalbiters2010-05-29

頭でっかちになりつつある。で、体にはそれが不満らしい。スマートに情報の海を泳ぎわたる人になろうとしたら、やつは怒りのあまり腹を下した。いや、単なる過労かも。
夜七時の渋谷はえらい人混みで、会場はたいそうオサレな感じで、残業続きで体は痛いし、で、始まるまでは蛇の前の蛙みたくに縮こまっていたのだが、音楽が始まってしまえば音に乗れないかもみたいな心配は杞憂だったと判るのだった。本日はフィンランド音楽三番勝負で、最初は若手のフリッグーーや、もう、若いのっていいね、と何のてらいもなく言えてしまう素直に伸びていく音楽。フィドル3+ギター+ベース+マンドリンという編成で人前でパフォーマンスするのが楽しくてたまらない、という風に弾きまくる(時に雄叫びも(笑))のだが、単に元気、というよりは育ちのよい身体能力といった感じで、伸びざかりのクラシックバレエ・ダンサーの大ジャンプ連発を見ているような幸せな気分になって来るのだった。
休憩の後はアコーディオンとベースのレピスト&レティ。こちらはうってかわって繊細でしみじみかつ一筋縄ではいかない大人の魅力。特に、夜明けに着想して書いたという瞑想的な曲から、ベースとアコーディオンでタンゴを踊るような演奏パフォーマンスも凄かった(楽器どうしで絡むなっ。やおい的エロさ満載で嬉しくなってしまうじゃないか*1)狂躁的で時にほとんど悪魔的な曲(曲名失念)を経て、レピストの息子の名前を冠した、一見わかりやすくてノスタルジックなメロディラインの裏で、時に不穏なまでに互いの音の間隙を取りに行くアコーディオンとベースのやり取りが圧巻なワルツに至る後半のつながりが素晴らしかった。音楽としては、今晩の3グループの中で一番好きかも。ほとんど明かりのない会場で、他の客の存在は感じるけれどもノイズはほとんど無いような環境の中で、全身を音に浸して聴いてみたい。
で、トリはハーモニカ・カルテットのスヴェング。もう、これは圧倒的なパフォーマンスと言うしかない。ハーモニカで途轍もなく愉快に吹きまくっているぞ、というのはYou Tubeなどの映像を見て知っていたけれど、ライブで感じたのは、「吹きまくる」曲のレンジの広さ(フィンランドの伝統曲からフィンランドのジプシー音楽(本来は遅くて暗い、らしい)、ラグタイムやメンバーのオリジナル曲や「ハウルの動く城」のカヴァー、果てはショパンまで)を支える研究能力(曲の収集と再構成の能力)と演奏技術の強さ、だった。底の厚みが違うんだわ。重戦車級。その上でビジュアルからキャラまで、ビシッとコンセプトを決めて演出している。ハーモニカは口元に小さな(大きいものもあるが)楽器を寄せて、ややうつむいた姿勢で吹くから、男が演奏すると、それだけで微妙に内省的なかっこよさが生じるのだが、そのかっこよさをベタで売りにするのではなく、むしろお前ら成金か詐欺師かという香具師的雰囲気を自覚的に作り出すことによって、上述のかっこよさまで無駄に立ってくるのですなあ――といった細部まで、あらゆるところが練り込まれ、考え抜かれている点に大いに感銘を受けました。宙をつんざき背後に轟くハーモニカの響きのかっこよさは勿論言うまでもない。
ということで、三者三様の音楽を聴くことができて、たいそう楽しいショーケースの夕べでした。感謝。

*1:つまり、ノットイコール演奏者なのです、と注記しておこう。舞台上で演奏者どうしが絡んでも、面白くもエロくもならない。