アリーザーデの音に溺れる。

戦闘終了! 気づくと秋の虫の声があらゆる場所から立ちのぼっている。8月と9月の初旬はどこのバーミューダに消えたのか。
とどのつまりは仕事とは言え原稿書きだったので、残業時間の割にストレスはなかったのだが、とはいえ拘束時間が長ければ家事は滞るので、冷蔵庫は何週間もほったらかされたトマトとか、黒く変色した大根とかに占拠され、流しの虫がいくら退治しても湧いてくると不思議に思っていたら、実家から貰って来て食べきれなかった葡萄が納戸でワインに変わっていたのであった。うう、申し訳ない。
ともあれ、戦いは終わったので、歯車は人間に戻るのである。人間というのは、湯船につかってのたくたするのが苦痛でなく、自分で時間をかけて支度した食事を心ゆくまで味わう存在のことである。土曜日は午後の3時を過ぎないと動けないなんていうのは論外だ。
頃あいもよく、夏のはじめに注文したら入荷は1、2か月先になりますと言われていたアリーザーデのCDが届く。数年前の来日以来、私がこよなく愛するイラン古典音楽のマエストロだ。これが沙漠にしみ込む慈雨のごとく、乾きすさみ切った心身に効く。さる高名な音楽学者が死ぬ前に何か音楽を聴くことができるなら、自分はイラン古典音楽を選ぶと言っていたそうだが、私もその意見に激しく同意したい。まさしく天上の音楽。いや、そもそもパラダイスってのはペルシア起源なのだからして。
You Tubeに上がっていたので、リンクを貼ってみた。

画像はえらく悪いけれど、アリーザーデの緩急自在な間あいとそれによって強調される切迫した響きは聞き取れる。


何と、若き日のパリサーの歌まで見つけてしまった。パリサーはイラン古典音楽のディーヴァの一人。革命後のイランでは女性は人前で歌えなくなってしまったので、一時は消息不明みたいに言われていたらしいが、近頃復活した。この映像は多分革命前のもの。右端で弾いているのがまだ若いアリーザーデ。