臓器移植法に関するメモ。

実家に戻って大掃除編其ノ二、今度は大叔母の方の台所の垢を落し、ためこまれて劣化した粗品、賞味期限を20年ばかり超過した調味料の類を捨て、食器の山を取り出して洗ってかわかしてまた仕舞う。景品、旅行のみやげ、記念品その他その他。赤玉ハニーワインのグラス(ハニーって何と思ったら昭和41年発売らしい)、ガラスの灰皿、銘は「白髪染め 君が代」、チェコあたりで買い込んで来たらしい、やたら細工の立派なガラス皿‥‥‥何と言うか、家中ヴンターカマー状態(笑)。どうやら私は一生自分好みの食器が買えないらしいぞ。

臓器移植法の条文比較

臓器移植法の改正案が先日衆議院で可決し、参議院に回った訳だが、改正案だと「脳死が人の死になると読める」とか言われていて、しかし条文上の根拠を流し読みした報道に見つけることができなかったので、オリジナルに当たってみることにした。

第六条  医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、この法律に基づき、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。
2  前項に規定する「脳死した者の身体」とは、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。
3  臓器の摘出に係る前項の判定は、当該者が第一項に規定する意思の表示に併せて前項による判定に従う意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないときに限り、行うことができる。 (後略)

上が現行の法律。下が改正案。

第六条第一項を次のように改める。
医師は、次の各号のいずれかに該当する場合には、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。
一 死亡した者が生存中に当該臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないとき。
二 死亡した者が生存中に当該臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって、遺族が当該臓器の摘出について書面により承諾しているとき。
第六条第二項中「その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって」を削り、「もの」を「者」に改め、同条第三項を次のように改める。

3 臓器の摘出に係る前項の判定は、次の各号のいずれかに該当する場合に限り、行うことができる。
一 当該者が第一項第一号に規定する意思を書面により表示している場合であり、かつ、当該者が前項の判定に従う意思がないことを表示している場合以外の場合であって、その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないとき。
二 当該者が第一項第一号に規定する意思を書面により表示している場合及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であり、かつ、当該者が前項の判定に従う意思がないことを表示している場合以外の場合であって、その者の家族が当該判定を行うことを書面により承諾しているとき。

ややこしくてよく判らないので、リストに開いてみる。

(現行法)

  • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合
    • 遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき
      • 脳死判定に従う意思を書面により表示している場合
        • 告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき:判定できる
        • その他の場合:判定できない
      • 脳死判定に従う意思を書面により表示している以外の場合:判定できない
    • 遺族がないとき
      • 脳死判定に従う意思を書面により表示している場合:判定できる
      • その他の場合:判定できない
    • その他の場合:判定できない
  • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している以外の場合:判定できない

(改正案)

  • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合
    • 告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき:判定できる
    • 遺族がないとき:判定できる
    • その他の場合(告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒む場合等?):判定できない
  • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思がないことを表示している場合:判定できない
  • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思の有無を表示していない場合
    • 遺族が当該臓器の摘出について書面により承諾しているとき
      • 当該者が前項の判定に従う意思がないことを表示している場合:判定できない
      • それ以外の場合
        • 家族が当該判定を行うことを書面により承諾しているとき:判定できる
        • その他の場合:判定できない
    • その他の場合:判定できない

分類間違えていたらご指摘ください。ううむ。リストに開いても判りづらいか。ぱっと見で気が付く点としては、

  1. 改正案の方が脳死判定できる範囲が拡大している、特に意思を明確にしていない場合のパターンが細分化されている
  2. 現行法、改正案ともに「遺族」「家族」の使い分けがされている(整理の難しい問題ではないので、省略)

あたり。第一の点については、

  • 現行法と改正案の共通部分
    • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合で、かつ遺族が当該臓器の摘出を拒まず、かつ脳死判定に従う意思を書面により表示している場合で、かつ告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき:判定できる
    • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合で、かつ遺族がなく、かつ脳死判定に従う意思を書面により表示している場合:判定できる
    • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合で、遺族が当該臓器の摘出を拒む場合:判定できない
    • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思がないことを表示している場合:判定できない
    • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思の有無を表示していない場合で、かつ家族が臓器の摘出及び当該判定を行うことを書面により承諾しているとき以外の場合:判定できない
  • 改正案による変更部分
    • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思の有無を表示していない場合:現行法では一律に「判定できない」が、改正案では、家族が臓器の提供を書面で承諾した場合、本人が判定に従う意思がないことを表示していない限り、家族が書面で承諾すれば「判定できる」
    • 生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合:現行法では「臓器の摘出は承諾するが脳死判定は受けない」と表示するという選択肢があり得たが、改正案では不可能に

つまり、改正案では、「臓器は提供したいけれど、脳死の段階で提供することには抵抗ある」という見解を本人の意思として主張することができない――ただし、「本人は臓器提供の意思の有無を明確にせず」かつ「脳死判定を受けないことを明確にし」、なおかつ「家族が臓器提供について承諾」すれば、実態としては「脳死の段階では臓器を提供しないが、死後には提供する」ことも可能ではある。
また、「あまり考えたくないので曖昧にしておきたい」という人に対しては、家族の見解によって「臓器提供をするか否か」を決めることになる。一方、「オレの臓器はたとえ死後だろうと誰にも渡さん」という書面により表示された見解は改正案では尊重される。換言すると、本人がはっきりと書面により意思を明示しない限り、臓器提供についても、脳死判定についても、家族の判断にゆだねられるということになる――はず。どこか、勘違いしていたらご指摘ください。
んー、個人的には「脳死が人の死とみなされかねない」という懸念より、家族の判断の範囲が広がっている方が気になる。そもそも家族って、法律上はどのように定義されているのだっけ?