来ますよ、オリンピック/ホスピタリティについて。

今日のまったくひどい俗悪さは、それが為されるからじゃあなくて、それを為すがままに任せているから、起きるのよ。――「特性のない男」第1巻第2部

昔、お役所のポスターを読解してトンデモな心性をあぶり出そうとしていたことがありました。

日本経済は必ず復活します。/いつ、その時がくるのか。/どうすればより早く来るのか。

さて、これは何の話でしょう。経済誌の広告でしょうか。内閣府政府広報でしょうか。こう続きます。

日本人自身が、日本の良さに気づくこと。/世界の人にそれが伝わり、日本に注目が集まること。

微妙なバイアスがかかって来たのがお判りになるかと思います。私自身は、経済論議におけるこのような論の進め方はあまり好みませんが、ことに昨年の秋以降、大いに勢力を盛り返して来たテンプレートであることは確かです。「悪しき成果主義はやめて、日本型の年功序列・終身雇用を復活せよ」みたいなものですね。
で、先刻から引用しているこの文章は何なのでしょう。ネタバレしますと、こういうことです。

(中略)2016年東京オリンピックパラリンピックには、/莫大な経済効果があります。

(多分)東京都の広告です。現在、都内の電車はこんな吊りビラを下げて走っています。IOC評価委員会は会場配置などについては一定の評価をしたと報道に出ていましたが、オリンピック・パラリンピックを何よりも経済効果から語り出す思考回路はOKなのかな。委員たちにエコとか世界平和とか高邁な理念を説く裏で、支持率アップのために臆面もなく経済効果を連呼する、この臆面のなさはいっそあっぱれなほどです。わはは。
広告はなおも続きます。

でも、それ以上に大切なのは、/気配りや、おもてなし、もったいない、安全世界一、/といった日本らしいオリンピックで世界を結ぶことで、/大人が自信を取り戻すこと。

「気配りや、おもてなし」のあたりまで読んで、「やっぱり札束だけでは恥ずかしかったのね、大事なのはおもてなしの心だもんね」とか思ったあなた、甘い。ホスピタリティが大切、というのではなくて、大人が自信を取り戻すことが大切なのです。そういえば、誰かが「評価委員を日本で一番偉い人と思ってもてなすように」と指令を出したとか出さなかったとかどこかで読んだのだけど、相手が偉いか偉くないかで態度が変わるようなおもてなしはホスピタリティとは言わないよね、多分。
ところで、もともと論旨のスカスカな文章だったが、このあたりで主語も混濁してきましたな。この「大人」って、それまでの文脈では「日本の大人」だと思うのだけれど、

それを見た世界の子供たちに夢を与えることです。

と言うからには、リーマン・ショックで自信をなくした世界中のパパやママなのだろうか。いくらテーマが結びだからって、大風呂敷にすぎるというものだよ。

来ますよ。/21世紀の東京オリンピック

だそうです。
いやね、さもしいのは(多分)人間の本性だから、さもしくなくなれとは言わないよ。
しかし、さもしさを隠して痩せ我慢することを美しいと見なすのが、文明の価値観、とは言わないまでも、いわゆる「古き良き日本」の価値観だったのではなかろうかと愚考するのでありますよ。
美しくない。
醜くすらない。
みすぼらしい。
あまりにも劣化著しいからみんなスルーしているみたいけれど、駄目なものは駄目と言っておいた方がいいと思う。
私はこういう貧相な文章を公共のスペースで読みたくないのさ。

(追記)
招致委員会のブログに書いてありました。

ちなみに全文はこちらで読めます。